② 現状把握で正しいリフォームを

1.その物件は、長寿命化リフォームに値する物件か?

既存住宅の建築仕様や劣化状態はまちまち。どんな家でも長寿命化できるのでしょうか?平成28年、増改築に係る長期優良住宅の認定制度の運用が開始されました。この基準をよりどころにして、仕様や性能を高めていく長寿命化リフォームを計画する必要があるのですが、中には、必要最低限の仕様や性能の確保が難しい物件もあります。愛着のある自宅であれば、すべては叶わないにしてもできる範囲の工事をすることで生活環境の改善を図るという考え方も悪くはないと思います。が、今から中古住宅を購入して長寿命化リフォームを施し、快適な暮らしを手に入れようと考えている買主さんなら、長寿命化リフォームに値する物件を購入すべきでしょう。安いからと言って、あまりにも古すぎる物件やメンテナンス不良で劣悪な物件を購入しても、期待する仕様や性能の向上が見込めない場合があるからです。

 

2.3種類の建物劣化と5つの基本性能を見極める

新築当時は新品だった建物も、時を重ねるごとに劣化するのは当然のことです。長寿命化リフォームの考え方においては、所謂、「経年劣化(物理的劣化)」にとどまらず、「機能的劣化」「社会的劣化」についても対策すべきだと言われています。つまり、高機能化した新製品の開発により相対的に「陳腐化した状態」や、新たな社会的要求や基準の登場によって生まれた相対的な「低水準の状態」をも改善する必要があるのです。

そして、備えるべき5つの基本性能として「1.耐久性能」 「2.耐震性能」 「3.省エネルギー性能」 「4.バリアフリー性能」 「5.維持管理・更新の容易性」があります。これら、劣化対策と性能向上を目指したリフォームを実施するのが長寿命化リフォームというわけです。

また、住宅性能等のハード面だけではなく、地域性への配慮や、歴史や愛着が引き継がれる住宅にするなど、ソフトの視点も不可欠です。派手で奇抜な外観や独りよがりの間取りは、次の世代にとっては引き継ぐ意味のないものとなる恐れもあります。長く愛されるデザインや街並みとの調和に配慮した物件は、それだけで存在価値の認められた物件となりうるのです。

 

3.建築士の建物診断で、3つの劣化状況を知り対策を練る

建物診断とは、対象となる既存住宅をスケルトン(構造+外皮)とインフィル(内装+設備)に区分し、その劣化度や居住性等について調べることです。

まずは現地に赴き、建物の内外を目視検査し、「経年劣化(物理的劣化)」に関することを調査します。次いで、「機能的劣化」「社会的劣化」の調査を行い、現在保持している住宅性能について、最新仕様や現行基準とのギャップを確認します。

この結果を踏まえて、実施すべき長寿命化リフォームの全体像を確認し、「いつ」「どのように」リフォームするのが適正なのかを判断します。つまり、診断結果が思いのほか悪く、劣化対策や性能向上に予想以上の費用がかかりそうな場合は、一般的なリフォームに留めることも考えられますし、コスト面や資産価値等から見て建て替えの方が得られる効果が高ければ、建て替えの可能性を模索する必要が出てくるのです。いずれにしても、建築士による正確な現状把握とそれに基づく対策・改善計画の策定が不可欠です。建築士と住まい手の十分なディスカッションによって、暮らしの質を高める生活環境の改善に取り組むことが大切です。検討の結果、長寿命化リフォームを実施する判断がつけば、全体計画を経て設計・施工へと進みます。

 

4.希望するリフォームと必要なリフォームを融合させる

長寿命化リフォームの設計ポイントは、建物調査で明らかになった物理的劣化の改善にとどまらず、先に挙げた5つの性能「1.耐久性能」 「2.耐震性能」 「3.省エネルギー性能」 「4.バリアフリー性能」 「5.維持管理・更新の容易性」を向上させる点にあります。

たとえ、思い立ったリフォームの動機が単なる困りごと改善だったとしても、この機会に建物全体を総点検し、今後この建物にいつまで住むのか、それまでどのように利用していくのか、メンテナンスや更新に今後どのくらいの費用が必要になるのか等を冷静に考えてほしいのです。

これらの考え方は、なにも、国が目指す「良質な住宅ストックの形成と循環」に寄与するためだけにあるわけではありません。長寿命化リフォームを実施することによって、間違いなく住環境は改善されますし、暮らしの質は高まるのですから。

 

5.予算の中でどこまでできるか、工事範囲を決定する

困りごと改善のためにリフォームを思い立ったものの、長寿命化リフォームを視野に構想を広げるためにはそれなりの予算も必要になってきます。

建物診断の結果から、このタイミングで是非とも実施すべき劣化改善工事もあれば、次のタイミングまで様子を見て、段階的に行っても問題ない性能向上工事もあります。予算の中でどこまでできるか、優先順位を考えながら工事範囲を決定する必要があります。

自分の思い描くリフォームを実現することも大事なことですが、建物診断で劣化を指摘された部分は速やかに改善すべきです。特に、床下の湿気や雨水浸入による腐朽の進行や白蟻被害によっておこる構造部の耐力低下など、致命的な劣化についてはこのタイミングで確実に手を施しておかないと、せっかく費用をかけてリフォームしても根本的な部分で長寿命化できていないことになります。

また、省エネルギー性能やバリアフリー性能は高いに超したことはありませんが、快適さの感じ方や必要性は人それぞれです。それに引き換え耐震性能は建物が持つ固有の性能であり、長寿命化リフォームにおいて真っ先に確保すべき性能となっています。先ほどの劣化改善の例と同様、耐震性能の向上は長寿命化リフォームを実施するためには欠かせないポイントなのです。

 

6.維持管理計画書を策定し、将来的なメンテナンス準備を

長寿命化リフォームは、1回ですべてを成就させることにこだわりません。費用やタイミングを考え、複数回に分けて段階的に行う方法もありますし、これからの状況変化に伴い柔軟に計画を変更しても良いわけです。

ただ、今回の長寿命化リフォームで実現できなかった劣化改善策は、数年後には必ず実施すべき時期が到来します。耐震性能以外の性能向上は先送りできたとしても、劣化改善を先延ばししすぎて良いことはありません。

建物診断の結果、住み替えもせず、建て替えもせず、現存する建物を長寿命化し長期にわたって利用すると決めたのなら、計画的なメンテナンスを実施し長持ちさせることが大切です。今後の維持管理について計画書を作成し、予算も含めた心づもりをすることで、計画的な準備を継続して行うことが可能になります。

 

7.維持管理の基本は片付けと掃除!定期点検とメンテの継続を

リフォームが完了して快適な生活を手にすると、安心感と開放感から気の緩みが発生します。それまでクローズアップされていた困りごとが改善された後は、目を向けることも気にすることもなくなってしまいます。

維持管理の基本は片付けと掃除!リフォーム済みの箇所も含めて、こまめに片付けたり掃除したりする姿勢は、不具合に早めに気づくことに繋がり、ひいては劣化を未然に防ぐことにもなるのです。また、点検やメンテナンスという意識で、中古住宅を購入して長寿命化リフォームを施せば、「安心」「快適」「健康」といった豊かな住まいと生活の質の向上を実現することができます。マイホームは買って終わりではありません。自分たち家族が成長するように家も変化していきます。大切なマイホームを常にいい状態にして、「我が家が一番!」という愛着も深まっていくといいですね。