2024年の能登半島地震では、新耐震基準の建物でも、地盤の損壊や基礎の破壊によって壊滅的な被害を受けるという事例が見受けられました。これまでの地震対策は、建物の壁や柱を強化する「上部構造」に偏重してきましたが、今回の被害状況は、地盤と基礎という「建物の土台」に潜む重大なリスクを浮き彫りにした形となったのです。
現行の耐震診断が抱える「死角」
一般的な耐震診断の多くは、建物の壁の配置やバランス、劣化状況の確認といった「上部構造」の評価に主眼が置かれています。地盤要素による調整は加味されるものの、実際には、地盤の良し悪しを正しく考慮されていないのが実情ではないかと思います。軟弱な地盤では、硬い地盤に比べて地震の揺れが大きく増幅されるため、建物が設計時の想定を超える衝撃を受け、倒壊のリスクが飛躍的に高まります。上部構造だけが頑丈でも、それを支える地盤が揺れを増幅させてしまえば、住まいの安全性は担保できません。
対策を講じたはずの「地盤改良・杭基礎」の限界
軟弱地盤に対しては、一般的に、地盤改良や杭基礎による補強が行われます。しかし、能登半島地震では、こうした対策を施していた建物ですら被害を免れませんでした。 激しい揺れや地盤の変形により、地下で杭基礎が「せん断破壊(横方向に断ち切られる破壊)」を起こしたり、想定外の地盤損壊によって基礎そのものが折れたりするケースが確認されました。その結果、支えを失った「上屋(建物)」が傾斜、あるいは倒壊に至るという、これまでの常識を覆す被害が発生しています。
とは言え、上部構造が倒壊しては元も子もない
地盤の問題に加え、基礎コンクリート自体の劣化も深刻なリスクです。 特に古い木造住宅では、ひび割れから浸入した水分によって中の鉄筋が錆び、膨張してコンクリートを内側から破壊する「爆裂現象」が起きている場合があります。鉄筋が腐食した基礎は、本来の強度を発揮できず、地震時にあっけなく破断してしまいます。軸組み部分を耐震リフォームで強化していても、基礎がこの状態では「砂上の楼閣」となりかねません。
耐震診断で指摘を受けた場合は、壁の補強だけではなく、基礎の補強も含めた総合的な耐震リフォームが不可欠です。壁の耐力を十分発揮し、上部構造が倒壊しないようにするためには、基礎の状態はとても重要なのです。
「建物が壊れなければ安全」という従来の考え方は、今回の震災で否定されました。地盤が揺れを増幅させ、基礎が破壊されれば、どんなに立派な上屋も崩れ去ります。これからの防災には、上部構造の耐震化と並行して、「足元からの備え」が何よりも求められているのです。










