「耐震性能」という観点から木造住宅を見てみると、建築された年によって三つのグループに大別することができます。1981年(昭和56年)5月以前に建築されたものは「旧耐震基準」、1981年(昭和56年)6月~2000年(平成12年)5月に建築されたものは「新耐震基準」、2000年(平成12年)6月以降に建築されたものは「現行基準」と呼ばれています。
これら三つのグループに対する今までの国の認識はこうでした。
「旧耐震基準」は明らかに耐震性能が低いものが多いので積極的に補強すべきだが、「新耐震基準」は一定の耐震性能が確保されているはずなので、その必要はない。現行基準は、阪神淡路大震災の被害状況を検証した結果、更に必要な方策を講じたものであり倒壊の恐れは非常に小さい。
この考え方を踏襲し、耐震補強の補助金制度や耐震化に対する税制優遇措置の対象は、「旧耐震基準」で建てられて建物だけということになっています。つまり、「新耐震基準」で建てられた建物はそれだけで適合状態にあるので安全という解釈だったわけです。
しかし、私たちが所属する「日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(木耐協)」の発表を見てみると、「新耐震基準」の建物でも6割以上が「倒壊の可能性が高い」と評価され、決して楽観視することはできない状況にあることがわかります。
さて、「新耐震基準」を更に強化したものが「現行基準」であるわけですが、ベースとなる必要壁量については何ら変わりがないということをご存知でしょうか。では、「新耐震基準」と「現行基準」はどこが違うのか。必要壁量は変わらないものの、耐力を発揮するために必要な垂直方向の柱と水平方向の土台や梁との接合部に、計算から導き出された金物を使用する既定が追加されたのです。更に、必要壁量をクリアするだけでは不十分であるという判断から、4分割法による配置バランスの確認についても義務付けられました。
適切な金物設置と配置バランスの確保… たとえ壁量は同じでも、これが出来ているのといないのとでは、雲泥の差なのです。私たち耐震補強事業者にしてみれば、新旧を分ける1981年(昭和56年)の溝に限らず、2000年(平成12年)の溝もかなり大きいと感じているのです。そしてそれは、熊本地震の被害状況の調査結果からも明らかになっています。熊本地震では「新耐震基準」で建てられた比較的新しい住宅も数多く倒壊したのですから。
震度6強から7に達するほどの激震がどれほどのものか想像もつきませんが、それに耐え得る住宅を少しでも増やしていくことが、私たちの使命だと感じています。